慶應義塾大学 理工学部 機械工学科

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岡慎司

略歴

1983年学部卒 、1985年修士課程修了、1985年に東芝入社、小向工場にて電波通信機器&宇宙機器の開発(生産技術)に従事2001年10月から現会社へ出向中

メッセージ

『宇宙』というと皆さんはどんな印象をお持ちであろうか 。SFや映画では深淵で神秘的な世界として描かれることが多く、理工学的には最先端の印象をお持ちの方が多いと思う。本欄にも星出宇宙飛行士が投稿されており 、星出さんご自身も『泥臭さ』を紹介されているが、製造メーカの開発現場では 、さらに地道な技術活動の積み重ねによる基盤技術の蓄積がものをいう地道な世界である。

実際の業務の中でも、機械工学に関わる『泥臭い』案件は多い。解りやすいところで言えば、ロケット打ち上げ時の振動や音響といった機械環境への耐性は勿論であるが、宇宙空間でも無重力 、高真空、高温&極低温、放射線など、地球上では考えられないほどの過酷な軌道上環境に耐えて、所定の寿命期間での所定の機能を果たすことを求められる 。勿論、機械工学だけでなく様々な技術を投入して初めて成立する世界であるが、機械工学の果たす役割は大きい分野であると思う。同時に 、地道な開発と検証を繰り返し行うことが信頼性を確保する意味で不可欠なものとなっている。

その意味からも 、大学の研究室での研究活動は、開発の基本姿勢や過程を培う意味で大切なものであった。限られた期間の中で計画を立て、様々な実験や解析を繰り返しながら最終的な成果(卒論とか修論)を纏め上げる必要がある 。途中、思い通りに進まなかったり、大きな問題が発生したり、まさに製品開発と同じである。試行錯誤を繰り返しながら、現象&現実を理論と結び付けてゆく過程は 、学生にとっても社会人にとっても大切なものである。また、その一連の過程の中で 、自分ひとりではなく数多くの関係者に支えられていることを理解することも人間形成の意味で大切なことであると思う。

振り返るともう矢上を巣立ってから17年になるが、矢上で一緒に過ごした研究室の恩師や同窓メンバーは自分自身の大切な財産である。学部生としての最初の3年間は、理工学実験などはあったものの 、座学中心でなんとなく過ぎていったように思う。学部4年生から研究室(当時は有賀・益田研、現在の益田・小尾研)に所属し、卒業論文や修士論文を纏め上げて始めて理工学部にいるということを実感できた 。今、学部に在籍して何となく物足りなさを感じている人は、是非、矢上に足を運んで色んな研究室を訪問されることをお勧めしたい。きっと違った世界が見つけられるはずである 。また、研究室、もっと広げると機械工学科には、そのカバーする領域の広さに匹敵するほどいろんな人種がいたが、このバリエーションが大切であると思う 。均質な社会は脆く、様々な力を生み出すことはできない。しかし、異種が認め合って上手く組み合わさることで強くなるということを忘れずに言い聞かせないと 、どうしても自分の色に合ったところに身をおきたくなるのは人の常である。聞きたくないことを言ってくれる人、そういう見方もあったのかと気づかせてくれる人を大切にしなければならないと思う 。ちょっと説教じみてしまった。反省。

さて、高度情報化社会などという言葉がもてはやされた時代もあったが 、いまやIT、グローバル、ソリューション、ビジネス、等、横文字が流行るご時世である。横文字を読み聞きし、あるいは自分で話していると、『宇宙』という言葉の響きだけで受ける印象と同じく 、なんとなく知的で最先端にいるような錯覚にとらわれてしまいがちである。様々な技術の著しい進歩を否定することはできないが、基本は地道で地味な技術開発の積み重ねであることを忘れてはならないと感じており 、機械工学の存在理由もその辺りにあると思う。11月の日本機械学会誌に、三菱重工の曽田特別顧問が日本企業の今後のあり方について論じられているが 、モノ作りに携わる一員として共感するところ大である。日本は物質的な資源に乏しく、交易上の要所でもない。知恵を使って、他国にはない付加価値をつけて商品を送り出し 、社会貢献することで、生きてゆくしかないと思う。

また、企業として生き残り 、勝ち残ることは大きな命題であることは事実である。安く物を調達し、低コストで製造し、市場での価格競争に勝つことは必ず求められる。しかし、その過程の中でやはり大切にしなければならないのは 、社会人としての行動規範、もっといえば倫理であると信じている。損得勘定や勝った負けたの競業ではなく、私が入社した頃、材料問屋さんの車に図面を持って同乗し 、大田区の町工場を走り回って物を作ってもらったような『泥臭い』協業体制(といっても甘え合うものではない)を大切にしたいと思う。

また、説教じみた展開になってきてしまったが 、伝えたいことは、機械工学を地道に学べば未来が開けてくるという、私の体験に基づく実感である。 機械工学科に集う皆さんの将来に栄光あれ!

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